経緯儀とトランシット

 経緯儀は水平角や鉛直角を測るおなじみの測量器械である。その原形は英国のシソンという人が1730年ごろつくったことになっているが、原語のtheodoliteは、やはり英国の数学者ディゲスの造語であるという。theoは「神の」で、liteは語尾に付けて「石」の意を表すそうである。望遠鏡のレンズにガラスが使われ始めたのは十四世紀に入ってからで、それ以前は透明な水晶や緑柱石を磨いており、これは十七世紀まで続いたのだから、勝手な想像を許していただくと、画期的な新製品の愛称として「神の玉石」はふさわしいかもしれない。日本では語源はともかく、「セオドライト」も通用している。

 カールバンベルヒ一等経緯儀で代表されるように、昔の経緯儀は水平軸のまわりの回転ができないものが多かったが、この回転が自由にできる経緯儀がつくられ、transsittheodolifeと命名された。これが今日のトランシットの祖先で、当時の和訳は「転鏡経緯儀」であった。日本でも三等三角測量に使われるなど、一般にやや簡易な測量用で、精能よりは簡便さを重視する方向に発展し、アメリカの百科辞典では経緯儀より精度が低いのが普通だと書いてある。     

 しかしその一方で、当時においてもウィルド社のトランシット型万能経緯儀があり、これが今日のT3やT2経緯儀につながっている。こうなると、経緯儀とトランシットの区別は難しい。

 ちなみにtransitは、星や太陽の子午線経過(通過)のことで、それを任意の高度で捕えられるように工夫したのが、トランシットや子午儀である。

LinkIcon(社)日本測量協会発刊 月刊「測量」より抜粋