海岸線

 陸地用の地形図にも、海図にも、陸と海の境界線である海岸線が描かれている。ところが、海には潮汐があって、日本の太平洋岸では一日のうちに1.5mほどの海面高の変化を繰り返す。地図の海岸線は、どんなときの海面を使っているのであろうか。

 国土地理院発行の地形図には、「高さの基準は東京湾平均海面」の注がある。この東京湾平均海面は明治の初期に決められたもので、いわば前世紀の遺物である。ただし、その高さは水準原点に移されて、こちらのほうは測量法で保護されている。しかし、この基準は海岸線には使えない。平均海面だから海岸線は、1日のおよそ半分は海の下ということになる。半日も海に沈んでいる海岸線では困る。地形図の図式規定では高潮面を使うとしているが、多少あいまいである。事実、任意時刻に撮影した空中写真の海岸を、そのまま図化に使っているようである。

 海図では「略最高高潮面」を海岸線の基準にしている。これは潮汐によって海面がそれ以上に高くなることはほとんどない面で、潮汐の主要4分潮の半振幅の和を平均海面に加えたものとして定義される。規定は明確であるが、海図の海岸線は地形図のそれを借用しているかもしれない。海図の主眼は、海底の水深や満潮で隠れる露岩の高さの基準とする略最低低潮面(基本水準面)の設定にあるからである。干満の差が激しい有明海などで、等高線間隔が小さい大縮尺地図での海岸線の処理方法を、どなたかご教示くださるとありがたい。

 (追記)金窪敏知博士(日本地図センター)によると、海水に浸される砂浜は干潮時にも含水量が多く、写真では黒く写り、高潮線が判別されるとのこと。何枚かの実例で納得しました。(多謝)。

LinkIcon(社)日本測量協会発刊 月刊「測量」より抜粋