地球潮汐
月と太陽の引力が海水の潮汐をひき起こすことはよく知られている。海水は液体であり、自由に形が変えられるものであるから、天体の引力と潮汐の因果関係はわかりやすい。海面の高さの変化は人間の目でもわかる。
ところで、人間の直感には難しいが、地球の固い部分の岩石にも潮汐が起こる。地殻、マントル、核から成る地球の個体部分も剛体ではないから、それらがもつ粘性の程度に応ずる潮汐を生ずる。高さの変化に換算すると20kmほどの振幅に過ぎないが、これを地球潮汐と呼んでいる。肉眼で見るわけにはいかないが、土地の傾斜・伸縮や重力を連続観測することによって測る。
この現象がひところ「地殻潮汐」という名前で学会に通用していたことがあった。原語はearthtideであり、earthには大地や土地の意味もあるから、大地の層を海水層に対応させたのかもしれない。しかし、潮汐に関与する地球の固体部分は明らかに地殻だけではない。1960年ごろであったろうか、あるときの学会で今は亡き坪井忠二先生が、地殻潮汐はおかしいから今後地球潮汐に変えようと提案され、それ以後地球潮汐の用語が定着した。
同じ坪井先生の提案で、地殻の垂直変動が上下変動に変わった例もある。理屈はともかく、水平変動に対応させるには上下変動がふさわしい、大先生の言われることだからとの二つの理由で、以後上下変動という用語が普及した。用語というものは業績を挙げた学界の使用後に収束する場合と、いま述べたような例もある。
(社)日本測量協会発刊 月刊「測量」より抜粋