回照器
ニューヨークでマーカーターだのパイキャッソと言われて、これがベルギーのメルカトルやスペインのピカソであるとすぐにわかる人は、相当アメリカずれした人である。アメリカでこの始末であるから、日本語のメルカトル、メルカトール、メルカートルの優劣を論じても仕方がないが、それにしても最近の日本ではカタカナ語が余りにも多過ぎるのではなかろうか。
日本が西欧文明を積極的に取り入れた明治のころは、あちらの言葉の和訳に漢字をあてるのが当然であった。その際、物や概念が日本にも存在していれば、たとえば気体とか地震などの適訳ができたが、新しいものには苦労したようである。
大数学者ガウスが創作し、三角測量の視準目標として愛用された太陽光反射器は、ドイツ語でHeliotropであるが、これには器械の性能がわかるような「回照器」という訳語をあてた。いまの日本なら、そのまま「ヘリオトロープ」とするところであろう。ヘリオの原義は「太陽の」でヘリオトロープは「向日性の」であるが、それが名詞化されている。
明治といえども、すべてが良かったわけではない。理系の常数と工系の定数(いまは定数に統一されてテイスウと読ませる)、東大系の惑星と京大系の遊星というものもある。さて、次に挙げる昔の測量用語を、最近の若い人はいくつ理解できるであろうか。
測站 覘標 帰心 緑威 時辰儀 折光差
濛気差 極星最偏 旋転楕円体
(社)日本測量協会発刊 月刊「測量」より抜粋